PSUの小部屋

 何の意味もなくU02 GC2階の武器屋でぼーっと立っていると、若葉マークをつけた子が入ってきた。暇なので観察していると、こちらの周囲をウロウロしたり、武器屋の隅々まで歩いたり、PA屋を何度も覗いたりしている。
 その子の装備欄やPA欄を見てみると、装備の具合と優先して習得するであろうPAを覚えていない事から、廃人の2垢目では無く、本当の初心者であると考えた。この時期に初心者は珍しいなと思ったので、「フォースならいつか使う事もあるので覚えておくといい」と告げレジェネを与え、そのまま立ち去ろうとすると…話し相手になって欲しいと言われたので少し話す事にした。


 その子について軽くまとめると「グラールに降り立って間もない」「姉のアカウント内の空きキャラでプレイさせてもらっている」「姉のいない時間だけ遊ぶ」「人と話すのは今回が初めて」という感じ。また、オンラインゲームやチャットに類するモノ自体の経験が浅いそうで、何事も真新しく興味深い様子。更に、どうもかなり若い子のようで、高校生でほぼ間違いない。


 この無邪気さというか、恐れを知らないというか、ネットに慣れて来た人間の持つ独特の他人に対する適度な疑心というか、正に無垢といった姿はとても眩しいものがある。それと同時に、危うさも感じた。過去の自分と重なる。オンラインゲームやチャット初心者だった頃の自分と。
 僕の心に緊張が走った。「白」は「混ざりやすく染まりやすい」からだ。例え10分程度の会話だったとしても、初めて会った人に冷たくされれば「こういう世界なのかな…」と落ち込むだろうし、逆に気持ちよく接してあげれば「他の人もこんな人だといいな」と期待を持つと思う。
 僕は身長慎重に言葉を選び、でも緊張を悟られず緊張させず、相手の話を聞きつつたまに自分の話もした。


 喜んでくれたのか「ストーカーと思われるくらいメールしますねw」と言ってくれたので、「イマ、アナタノウシロニイルヨ」とメールするよう促した。笑ってくれたけど、実際そんなメールされるとこっちは泣くが。


 ちなみにレジェネの理由は、必須だけど決して高価ではない(最序盤に稼ぐのが辛いだけでかなり廉価)モノだから。アホみたいに高いモノ援助する人もいるけど、そういうのって本人のためにならないし楽しみ奪うと思うんだよねえ。






 それでですね、再認識したのです。
 所詮ネット(とゲーム)だけど、されどネットなんだなって事を。


 僕が発する言葉は、僕の評価を上げたり下げたり、言った相手を傷つけたり喜ばせたりするだけじゃない。僕の言葉で相手が嫌な気持ちになれば、その周囲にいる人間は「ケンカしてるのかな…」「何があったんだろう」と心配する。僕の行動が、周囲を奮起させたり落胆させたりする事もある。どんな些細な事であっても、僕の為す事は、何らかの力と意味があるという事を思い出した。


 あ、「僕」って言ってるけど、これ実際はみんな同じ事なので自分として置き換えてください。


 極端な話だけども…
 とある幼稚園児がいる。幼稚園で先生に「信号無視はいけませんよ」と教えられた直後、どっかのにーちゃんが信号無視しているのを見た。どっかのにーちゃんからすれば、車が来ていたわけでもなく周囲に迷惑をかけたわけでもない。だが、それを見ていた幼稚園児は果たしてどう思うか。


 勿論、ここまで細かく気にするような人はいないと思う。僕も偉そうに書くほど100%まっとうに生きているわけでもない。でも、こういう考えを持つというのは大事だと思うのですよ。


 先を歩く者が、後ろから来る者を導き、道を照らす。
 そしてその道が、険しくも明るい道になるか、はたまた平凡だが暗い道になるかはわからない。


 僕らが為すべき事はなんなのかなあ、と考え直した日なのでした。